最近のGoogleデザインが面白い
去年発売されてからすぐにGoogle Homeを買って、おもしろく使っていることもあり、Googleのプロダクトデザインが気になっていた。なんだか最近、すごく洗練されてお洒落になった気がする… ということで、ミラノで見た展示をきっかけにいろいろと調べてみました。今後の電子機器デザインを考える上で、Googleの戦略は非常に参考になるのではと思います!
(この文章では、「デザイン」という言葉を、「スタイリングやカラーリングなど、狭義のプロダクトデザイン」という意味で使っています)
ミラノサローネでの展示「Softwear」
先日、ミラノサローネに初出展するため出張に行きました。色々な展示を見る機会があったのだけれど、個人的にGoogleの展示がヒットでした。
まずびっくりしたのが、ミラノサローネにGoogleの展示があるのか!ということ。Googleってテック企業の代表だし、インテリアの色が濃いミラノサローネというより、SXSWとかCESとかに出してるイメージが強い(両方行ったことないけれども)。
展示会場はこぢんまりしており、他の大きい展示(moooi、HAY、Louis Vuittonなど)に比べるとコンパクトだったが、Googleのような大きな企業が小さいギャラリーで展示をするというのが、なんとなくフレンドリーに感じて面白かった。
展示のテーマは「Softwear」。
展示内容はテキスタイル作家Kiki van Ejikの作品を展示する前半部と、Google HomeやDaydream view、Pixelといった製品を、それぞれ観葉植物や陶器の器と取り合わせて展示した後半部に分かれる。面白かったポイントは、タイトルにもあるようにソフトな布素材に対する強い関心と、その背後に見える制作者の意図だ。
先程挙げた3つのプロダクトのうち2つ、HomeとDaydream viewは外装のデザインにメッシュの生地を使っている。その色や質感、仕上げの処理は非常にハイレベルで、三次曲面を多用したDaydream viewにおいても、布地特有のもたっとした印象を感じさせず、シャキッとした形状にまとまり、親しみのあるものになっている。
作家のタペストリーは、多色の糸を使ったざくざくとした織りで、工業製品というよりも工芸的なニュアンスのものだった。これがうまく製品を補完し、表現したい世界観を表しているように感じた。製品展示においても、ハイテクな機能をもった製品が、添えられた器物のスタイリングによって、一つの風景を作り出している。
また、映像やパンフレットで見られる、Google製品とともに暮す人たちのビジュアルも印象的で、示唆に富んだものだった。
wallpaper.comの記事より引用
「Softwear」は展示ディレクターであるトレンドのスペシャリストLi Edelkoortによる造語のようで、1998年と2018年にディレクターによって書かれた2つの文章が会場入口にプリントされていた。非常に興味深い内容だったので、その一部を抜粋して引用してみます。
1998年
Software is material that informs a computer.
(Softwareはコンピュータの性質を伝える生地)
Softwear is textile that forms a lifestyle.
(Softwearはライフスタイルをかたちづくる織物)
2018年
Software is increasingly intelligent and intuitive.
(Softwareはますます賢く、直感的になる)
Softwear has become the design of existense.
(Softwearは存在のデザインになる)
おそらく、今回の企画はもともとあった1998年のテキストにインスパイアされて作られ、2018年のテキストは展示に寄せて書かれたものなのだろう。プロダクトが「どのように働くか」ではなく、「どのように人と共存するか」にフォーカスし、Googleの描くビジョンを伝える、とてもユニークで面白い展示だった。
Googleのプロダクトデザインのねらい
さて、ここからはwebの記事などをもとにした僕の推測になるのだが、Googleのデザインについて思ったことを書いてみようと思う。
まず、デジタル機器にテキスタイルを用いる手法そのものは、それだけで世界初、超新鮮というわけではない。例えば、北欧のオーデイオ機器メーカーVifaやB&O Playの製品には数年前から効果的に布地や革ひも、木材が使われていた。
vifa.dkより引用 確か生地はKvadratのものだったはず
なのでGoogleのデザインは、まったく新しいテイストを生み出したというよりも、すでに芽が出ていたテイストを引用し、うまく発展させたものだといえるだろう。(パクりだといいたいわけではありません。念のため)
むしろ重要なのはGoogleが、今も世界中のプロダクトが追随するAppleテイストとの決別、差別化を打ち出したという点のように思う。
Appleのデザインは、個人的なイメージだが「テクノロジーの結晶を形にしたもの」だと感じる。黒くてつやっとして薄い板状のiPhoneは、2001年宇宙の旅に登場する「モノリス」のようだし、まるで一枚の板から削り出したかのようなMacbookの佇まいは、ユーザーのテンションをぐっと上げる。人間の意識を刺激し、進化を促すようなデザインだ。
これに対してGoogleのデザインは、「テクノロジーを意識させないための形」のように見えた。Google Homeはコンピュータというよりも器物的なフォルムで、インテリアに自然に溶け込む。スマートフォンPixelも、布地こそ使っていないものの背面はグレイッシュなツートンで、画面を伏せて置くと「スマホとしての存在感」がなくなる。肩肘張らずに使える、人間らしい生活を促すようなデザインだと言える。
数年前、まだGoogleのスマホがNexusという名前だったころのデザインは、言ってしまえばAppleテイストの追随だったように思う。そこから数年でライバルと差別化し、独自路線を打ち出したのはものすごい。最近だいぶGoogleのイメージお洒落になったよなと思っていた矢先のこの展示だったので、余計にそう思ったのかもしれない。
デザイン会社が買収されているという話
話は変わるが、6月に第二回The Guild勉強会というイベントに参加してきた。
(その時とったメモはこちら)
テック・ビジネス・デザインに精通した研究者兼クリエイター、ジョン・マエダが発表したメガトレンド資料「Design in tech 2018」を読み解くというテーマだったのだが、その中で面白い話があった。世界の有名デザイン会社が、テック企業やコンサル会社、金融会社に買収されているというのだ。
調べてみると、Googleもいくつかのデザイン会社を買収し、急ごしらえ的にプロダクトデザインの力を高めたようだ。例えば、Mike & Maaikeという企業は、もともと独立したデザイン事務所だったが、2011年にGoogleに買収されたようだ。
この経緯をまとめた、彼ら自身による文章がブログに上がっている。
大きな企業の傘下に入って働くことの大変さだったり、人間が判断するプロダクトデザインの決定プロセスと、データによって判断できるソフトウェアデザインの決定プロセスの違いなど、面白いトピックが多いが、英語かつ長いのでまだ読み切れておらず…あとでじっくり読んでみます。
Mike & Maaikeのwebサイトを見ると、Google Homeの前身となったと思われる、Android Homeというプロトタイプのデザインが公開されている。(このときはまだ「モノリス」デザインだ)僕が調べた中では、Google Homeを誰がデザインしたかは公開されていないが、もしかするとこの人たちの仕事なんじゃないだろうか。ハードウェアデザインの力が足りなかったら買ってきたらええやん、というのは、日本人からすると相当大胆に感じる。また、こういう情報を外に出すのが、オープンソースの文化で育ったGoogleらしさなのだろうか。
Googleのハードウェアデザインのリーダー、Ivy Ross
Googleの新しいデザインを見る上で外せない人物がいる。現Googleのハードウェアデザインチームのリーダー、Ivy Rossという女性だ。
この方はもともとジュエリーデザイナーだったようで、GapやKalvan Kleinといったファッション企業、Swatchや北米ディズニーストアなど、多くの企業と業界を経験してきたらしい。(同Design Milkの記事より)
Softwear展でも印象的だった、テキスタイルを使った人間味あるデザインを主導し、デザインチームと新しいデザイン言語(一つ一つのディテールではなく、製品群全体のデザインを規定するルールのようなもの)を編み上げていったのだろう。
Design Milkの記事より引用
(余談だが、この写真に倉本仁さんデザインのメッシュトレーが見える。Googleは各国のデザイナーをリサーチしているのだろう)
引用を続けるが「Human, optimistic, and bold」というキーワードを設定し、スマートフォンやVRヘッドセット、スマートスピーカー、イヤホンといった多ジャンルの製品群を、一つにまとめあげた。僕はこのデザイン言語とコンセプト、すごく好きです。
Design Milkの記事より引用
これからの電子機器のデザイン
この10年間、電子機器のデザインはAppleの主導のもとにあったといってよいだろう。 iPod、iPhone、そしてiPadをインターフェースとした製品システムは名実ともに世界を変えた。 ただ、その影響力の大きさゆえに、ほとんどのプロダクトデザイナーは、Appleのテイストを真似していればよいという消極的な態度になってしまったとも言えるだろう。これは自分自身についてもそう思う。
だから、北欧メーカーからGoogleにつながる、新しいデザイン言語の流れ が非常に新鮮に見える。これ以外にももっと新しいものが生まれて来てほしいし、自分がそういう仕事に関われたら最高だ。
様々なデザイン、思想、生活スタイルがある。そして、多くの企業が多種のデザインを提供し、より多くの人が好きなものを選べるようになる。
これはあまりにナイーブな考え方かもしれないが、Googleの展示と最近のデザインは、そういう未来が来たらいいよね、と思わせるものだった。