久野染工場で有松絞りのヤバさを見た
先日、友人のデザインリサーチャー浅野翔くんに誘われて、彼が協力する絞り染めの会社、久野染工場さんを訪ねてきました。久野染工場は名古屋の有松にあり、地場産業である「有松絞り」をベースにさまざまな素材開発・生産を行う企業です。
実は有松を訪ねるのは2回目。去年は浅野くんの事務所見学+お祭りでしたが、今回は久野染工場の技術の一部を体験させてもらえました。これがものすごく面白かった!
浅野くんは頭が切れて気のいいリサーチャーです
久野染工場の絞り染め
まず案内していただいたのは、いままで製作したさまざまなテクスチャの生地がストックされている部屋。久野社長自らサンプルを解説して下さいました。
いろいろな種類の模様、テクスチャの解説にはじまり、日本の絞り染めの歴史についてや、ハイブランドへの素材供給を数多く行い、常に新しいものを作る必要があることなど。また、単なる伝統産業ではなく、新しいビジネスを生み出したいという今後の展望についてもお伺いしました。
百聞は一見にしかずということで、見せて頂いたサンプルを写真でもご覧ください!
伝統柄のひとつ、手蜘蛛絞り
生地を絞り熱処理することで、柄に加えて形状を定着させることもできる
今まで提供した生地サンプルがずらり!
染色と脱色を組み合わせた複雑なパターン。自然物のようなランダムな表情
無限に増殖する絞り染め柄のバリエーションを分類、整理したという豪華本「日本の手絞り」を解説してくれる久野社長。エネルギッシュで快活な方でした
絞る際の下絵を生地に転写する型紙も見せていただきました
2つの絞り体験
サンプルを見せて頂いたあとに、実際の絞りの加工をワークショップ的に体験させていただきました!その様子をを振り返りつつ見ていきます。
①三角縛り(糸締め)
1. 生地を三角形に小さく折り、タコ糸できつく縛って防染(染まらない部分を作ること)する
2. 染料(今回は黄色)を調色し、鍋で一旦脱色した生地の上から染めていく
3. 染料を溶け込ませ、沸騰させたお湯で染める
4. 染めた生地を水で洗うと…
5. 赤く見える部分がみるみる鮮やかなイエローに変色し、色が定着する
6. 最後に大きな脱水機にかけると…
7. 完成!今回浅野くんが招待したファッション系デザイナーの西端さん(右)とのツーショット。縛り方の違いで柄が全く違ったものに!
生地をズームして見たところ。糸で縛られていた部分や、折り込まれて内側に入っていた部分はもとの紺色のままですが、外に出ていた部分には脱色→染めのプロセスで黄色が定着しています。規則的に生地を折っているので、柄は対称になっています
②ビー玉を使ったヒートセット
1. 加工前の細かいメッシュ状の生地。綿ポリエステル素材です
2. 熱加工のための重要な道具、ビー玉
3. ビー玉と細くて硬い糸を使って、生地を細かく絞っていきます。なんとなくソーセージを連想する?
4. 絞ったあとの状態。この状態だとブドウの房のようにも見えます
5. これをまるごと圧力鍋に入れ、水を入れて蒸してゆきます。
6. 数十分後鍋から取り出すと、フラットだった生地が丸みのある凸凹のついた表情に変化!こちらも、均一さとランダムさが共存する面白い質感です。
2つの製法を簡易的に体験して感じたのは、絞りのもつ可能性の幅広さ。色柄の変化だけでなく、波打たせたり、しわ、折り目をつけたりと、生地の表情をいかようにも変化させられるように感じました。また、防染の処理を少し変えるだけで染めの結果が変わるため、一点一点微妙に表情が違うのも面白かった。おそらく、大きいばらつきの許されない量産品では逆に難しいポイントになるのだろうと思います。(それを揃えるのも技術なのかも!)
先行製品開発と実験
最後に、久野染工場の社員の得能さんによる、実験的な素材開発の現場も拝見しました。久野染工場では主に布地に対する染めを行っていますが、得能さんは牛革を加工し、新しい質感の素材を生み出しています。
染工場に務めながら、靴職人のスキルも持つ得能さん(左)。得能さんの他にも若いスタッフさんがおり、それぞれ違った開発を行っているようでした
細かくしわを寄せて染めた革は、どこか生き物のような不思議な質感
加工した革(下)と、それを靴の形にしたもの(上)。まだ検討中の段階だそうですが、靴の形がシンプルで質感の映えるプロトタイプです
革を糸で防染し、2回に分けて染めることで奥行きのある表情を作り出したサンプル。これに限りませんが、絞り染めって今で言うところのジェネレーティブデザインですね
そんなわけで、久野染工場の技術の面白さを存分に味わった一日になりました。
浅野くんは今後、若いデザイナーと工場とがアーティスト・イン・レジデンス的にコラボレーションすることで製品開発をコンスタントに行うという構想も考え始めているようでした。染工場の中でも、ここまで技術とセンスが集積されたところはそうそうないと思いますし、工場とデザイナーのコラボレーションが加速する未来がとても楽しみ!