京都市立芸術大学で「メカニズム論」を担当しました
8月22日から24日の3日間、京都市立芸術大学の夏期集中講義の一つ「メカニズム論」を担当させて頂き、ワークショップを中心とした授業を行いました!
夏期集中講義はどの学科の学生でも選択できるということで、授業の目標を、「受講生が自分の作品/研究にメカニズムを取り入れようと思えること」に設定し、①メカニズムの基本を学ぶ ②メカニズムを用いた作品(縁日の出店)をグループで制作 ③他の講義の受講生に体験してもらいフィードバックを得る という3ステップを3日間に凝縮しました。
また、3日目にはPLEN Projectの柴田和弥さんをゲスト講師としてお招きし、メカニズムを使った自身の作品についてレクチャーして頂きました。ものすごく濃密な講義で面白かった…!
以下では、写真と動画を交えつつ、3日間のプログラムを振り返ってゆきます。
1日目:メカニズムの基礎を学ぶ
「そもそもなぜ美大でメカニズムを学ぶとよいのか」という話から始め、メカニズムを使ったアート作品や「ヘボコン」などの実例、ティンカリングやブリコラージュといった考え方を紹介しながら、手を動かして試行錯誤することや、制作に対するハードルを下げること、メカニズムを学ぶことの意義について触れました。
作る喜びと下手さを楽しむ「ヘボコン」 www.youtube.com
名和晃平の「MOMENT」は、振り子の動きを使って描くドローイング作品 vimeo.com
次にメカニズムの基礎となるねじやばね、歯車といった機械要素のはたらきを、3Dプリンタで作った模型の実演を交えつつ説明。ただしゃべるだけだと学生は寝るかなと思い(自分がそういう学生だったので)、授業はできるだけ実演やワークショップをベースにした内容にしました。
久しぶりにFDMの3Dプリンタをフル活用し、各要素の動きがわかる模型を制作
プリントしている最中。3DプリンタはPrintrbot Simpleで、制御ソフトはultimaker cura
最後に、ものをインタラクティブに動かすためのツール(micro:bit、Arduino、Raspberry Pi)と、その背後にある考え方を紹介しました。短期の授業のため深い内容まで触れられませんでしたが、自学することや創作のコミュニティに入ってみることの意義を、Maker Faire TokyoやMaker Faire Hong kongでの作品を引用しつつ伝えました。
https://microbit.org より引用 これは本当に使いやすいツール!
Maker Faire Hong Kong 2018(上記3枚)
これらの内容の合間に、ペットボトルをリミックスして新しい道具を生み出す「ペットボトルハッキング」、日用品や家電のジャンク品を分解し、使われているメカニズムを分析する「メカニズムの観察」の2つのエクササイズを行いました。どちらも1時間程度の短いものでしたが、みんな面白い成果物を作っていてすごかった!
ここで考えたアイデアや分解したジャンクは、そのまま翌日の制作の素材になりました。
ペットボトルの種類によるキャップの大きさの違いに着目し、切り取ったボトルでキャップを選別する、ユーモアのある作品「生茶 or evian」の実演
ペットボトルを切ったり穴をあけたりすることで、いろいろな形や機能のものが生まれます
各々が考えたアイデアをシートに記録してもらう。集まると壮観!(Photo: Kazuya Shibata)
ビデオデッキは内部構造の複雑さといい、小さすぎないサイズといいとても良い教材
動く象のおもちゃの中にはこんな骨格が…!
スティック式掃除機の分解。蓄電池の扱いには気をつけましょう
分解して観察したメカニズムをメモし、一覧する
バラした部品は次の材料になるので、まとめておく
2日目:メカニズムを使った作品をつくる
1日目に学んだ内容とメモした構造、アイデアなどを活用し、4つのグループに分かれて「縁日の出し物」をテーマにチームで作品制作を行いました。
テーマを「縁日」にした理由は2つ。時期が夏で親しみやすく、楽しいものが作りやすいことと、ただメカニズムを作品に組み込むだけでなく、それをいかに演出するか、見せるかを合わせて考える制作ができることです。
材料は前日に分解したジャンク品と、百均で購入した日用品、段ボールなどの安い資材。「見た目のクオリティは度外視」「企画で悩まず、とにかく手を動かして考える」ことを念頭において、ヘボコン精神を発揮しつつ制作にあたりました。
大学の廃材置き場から、使えそうな材料をピックアップ
講義用の机が一転作業机に
机の上は素材だらけに
ここで気をつけてもらったのは、できるかぎり手を止めず、作りながら考えてもらうこと。この制作は1日で終わるもので、授業の評価にも関連させなかったので、とにかく試行錯誤し、決断のスピードを速くし、失敗もしてもらうことを意図しました。
当日は夜に台風も来るということで早く授業を切り上げる必要があり、それもあってハイペースに制作が進みました!
レコードを発見、何かに使えるかな…
ゴムひもを使ったピンポン玉の発射台を作っています
できてきてる!速い!
3日目:作品を体験してもらい、フィードバックを得る
最終日。この日のイベントは大きく2つ。1つ目が、ゲスト講師のPLEN Project柴田和弥さんによるプレゼンテーションです。
業務でロボット開発を行い、ガチの趣味の制作でもハイレベルに可動する作品を作る柴田さんの考え方やメイキングに触れてもらうことで、メカニズムを学んだ先にあるものづくりを意識してもらえると考え、登壇いただきました。
「変態になる」→他人の目を気にせず、とことんまで突き詰めることをハイテンションに語ってくれました。最高!
PLEN Projectの業務でもワークショップを多々行うとのことで、プレゼンがうまかった…!
どんな物でもゴージャスに登場させる箱
— シバタ (@86siba) August 4, 2017
"デルモンテ"を製作しました。
MFT2017で展示します。 pic.twitter.com/bUh1nOGLuD
柴田さんの代表作「デルモンテ」は動画も交えて紹介。制作中の新作のメイキングも!
そして、2つめのイベントが、作った作品を体験してもらうこと!各チーム無事に作品が完成し、部屋を片付けて、他の集中講座を受け終えた学生さんをお客さんとして呼び込みます。来場者には「一番面白かった作品」と「一番メカがすごかった作品」に投票してもらい、作品を評価します。
地道な呼び込み(一人ずつ声をかける…笑)の効果もあって、たくさんのお客さんにご来場いただけました!
以下、各チームの作品の紹介です。
Aチーム:「ピタゴラおみくじ」
その名の通り、スタート地点に置いたボールが転がり、どのルートに分岐するかによって今日の運勢を占う作品。ボールが転がる面白さに加え、後ろのメンバーが楽しく囃してくれるという魅力もありました。「最も面白かった作品」で最高評価。
Bチーム:「ピンポンハイウェイ」
現在上映中の映画から名前をもじった的当てゲーム。ゴムひもを使った手前のキャノンを操作し、高得点の的を狙います。ペンギンを始めとした海の生き物をモチーフに使ったグラフィック、メカニズムの完成度ともにハイクオリティ。「メカニズムがすごかった作品」で最高評価、かつ総合得点でも一番でした!
Cチーム:「手塚医院の恐怖」
見た目から異彩を放つ、お化け屋敷のような出し物。椅子を使ったコントローラーとひもを操作し、クレーンゲームの要領でドライバーを動かし、手のイラストの上に落として手術を行います。看板や服装などビジュアル面も良い仕上がりで、メンバー同士が終始楽しそうに制作をしていたのが印象的なチームでした。
Dチーム:「はらへりサファリパーク」
観察のエクササイズで分解した象のぬいぐるみをメインのモチーフとして使った作品。ラクロスのスティックのような棒を使い、ピンポン玉を象のおなか目指して落とす、イライラ棒のような要素もあるゲーム。制作が進むにつれゲームの内容が固まってきて「手を動かして考える」ことを最も体現したチームでした。
どのチームも短い時間でアイデア出しから制作までこなしてすごかった!ワークショップの仕掛けにもっと工夫が必要なポイントもありましたが、抜群の制作力で対応してくれました。
来場者がはけたあと、作品の片付けと表彰、講義のまとめを行って授業は終了。
冒頭に書いた通り、メカニズムを自分の作品に取り入れて、作品をもっと面白くしてくれる学生がいたらいいなあと思います。人に何かを伝えたり、教えたりするのは難しいし手間もかかるけど、本気でやれば何かしらは伝わるんじゃないかな、と思わせてくれる3日間でした。
京都市立芸術大学に呼んでくださったプロダクトデザイン専攻の高井先生と牛田先生、PLEN Projectの柴田さん、何より受講生の皆さん、ありがとうございました!