ふしぎデザインブログ

デザイン事務所「ふしぎデザイン」の仕事やメイキングについて書くブログです。

デザインって良くも悪くもなるよねという話

最近、STS科学技術社会論)やバイオテクノロジーのELSI(倫理的・法的・社会的問題)と呼ばれる分野の研究をしている方々とお仕事で関わることが多い。

 

ããã ã¯ãªã ã¤ãªã  Gene Drives Elastic Future

ゆらぐ はなす つなぐ Gene Drives Elastic Future | ふしぎデザイン

 

分野の名前が難しいので想像しづらいかもしれないが、要するに「科学技術を社会になじむようにする方法を考える」分野だ。(僕の理解です。実際は違うかも)

 

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バイオテクノロジーはあらゆる科学技術の中でも特に影響力が大きい分野で、もたらされる恩恵が大きい反面色々と問題を抱えている。

わかりやすい例を挙げると、人間の受精卵を操作して子どもを好きなように作ってよいのか?あるいは、ある病気を媒介する動物を、病気の撲滅を目的として絶滅させてよいのか?といった具合だ。

これらの問いは決してSFの世界の話ではなく、既に生み出された技術によって実行可能なものだ。ただ、それには「本当に実行してよいのか」「実行するとして、誰がどのように社会実装するのか」という議論が必要不可欠になってくる。

 

www.ted.com

 

この議論が十分になされないうちに実行されてしまったり、あるいは本当は禁止すべきような危険な技術が実用化されてしまったりすると、バイオテクノロジーから本来得られるメリットよりも大きいデメリットを受けることになる。研究者は知的好奇心のままに技術開発をするし(デザイナーと一緒ですね)、企業は営利追求のためなら手段を選ばないこともある。さらには国や自治体が常に正しい判断を下せるとも限らない。

そこで、技術開発をどのように舵取りし、いかに実社会に実装するかを考え、いろいろなポジションの人々と一緒になって議論する役割が必要になってくるというわけだ。

 

――― 

 

ちょっと話は変わるが、上のような分野にかかわる仕事をしているため、最近はデザイナーにも倫理的な観点が必要だと思うようになった。

プロダクトデザインは、ある製品の外観を決めることで、その企業の顔を魅力的に演出することができる。グラフィックデザインは様々な手法を用いて、ある情報を魅力的に伝達することができる。UI、UXの分野も言わずもがなだ。

 

例えば、チームの一員としてデザイナーの能力をうまく活かすことができれば、こんな良いことができるだろう。

・アピールしたいものをよく見せ、魅力を引き出すこと

・伝えたい情報を正確に伝え、誤解のないように工夫すること

・人の生活を豊かにする、役に立つものを生み出すこと

 

 ただし、その力を活かす方向はきちんと考える必要がある。

デザインの力を活かすことによって、こんなこともできてしまうからだ。

 ・本来は良くないものをごまかし、よく見せること

・伝えたくない情報を隠し、ミスリードを誘うこと

 ・人の生活に害を与えてしまう、攻撃的なものを生み出すこと

 

で、多分、悪意あるコンセプトのもとにデザインの知恵を使っちゃったら、「とても健康的で美味しそうに見える毒」みたいなものなんて、朝飯前に作れてしまうだろう。それも、それが毒であるということは誰にも気づけないようなものを。

 

ここで言いたいのは「デザイナーは悪の手先だ」とかではなく、「自分は毒を作れることを知っている」ことはとても大事ということだ。

デザインは、楽しい夢を描き、実現することのできるすばらしい職業だと思うし、できるなら自分もそうありたいと思う。ただ、他のすべての職能と同じで、デザインの技術は良くも悪くも使える可能性がある、ということは忘れたくない。

(誰かにとっての良い夢は、ほかの誰かにとっての悪夢かもしれない)

 

僕らはどんどん新しい夢を描いてゆきたいし、それが良い夢であるようにがんばる。

いまいちまとまりのない文章になってしまったけれど、本当にそう思っています。

 

https://lh3.googleusercontent.com/x2g4fDMkPWWEdMRtGJTg9Sh-9BdbLSjgJ2i8YrCGTDZnM8DnGjLB-VtIp-IjWzwtCFbP6gbByb4yMoyXgrkvJtCM53SGNn89AybGpvv88qX2_VTN10XsuhXHLU6jevzV5wYTTFH05MOaypyUloZ7a9MmBhLcHHe8G4_6D5UuHnvZyfurbGIEbE3-9gpQqoz6hMT4EPqkju6eDAwhSaWs1bTeUAUlxazOpiBGXxhkQXCQM6rVgqduMIyMjEOFPVZ4LaCMGaV3DWYyjcs4m9fwg0vBR6dIYDVbA8Uiwof6-0MIJQuz_j8joC68H-FJc5QQBl2enwJf_KSO1bVDpU1HRx1JqnWFeaX9BwzczJ2zgaGhty7-F1WpbptcMKf23o1W8HjLQlELe_d184wq1NTKU3GkCzXmaX3-8gWoZAX9DVgbWKMOB_XnWoHV_igCwNgjk56GqCqblAukmSZCIaw-Cr-0ibU5Vga8KBxJGW2J6E_ycSVJaJK0U6DzkTRscalVQI6c4ggHeCVGKrTtr0qeImue38eHBk9SNguAUsWeFjynwIDnZXSbhSuHCnoIsLICf_pang8YYZq4lJzbjaTaziT0aixn8DGRR8WUpigj=w2114-h1400-no

全然関係ないけど、いま葉山でやってるブルーノ・ムナーリ展めちゃめちゃ良かったです

Nintendo Laboのデザインが好きだ

本日発表された「Nintendo Labo」すでに各所で話題沸騰ですが、僕もいちデザイナーとして大感動してしまったので、そのデザインについて書きたいと思います。

 

www.nintendo.co.jp

 

見た目のデザインについて

Nintendo Laboのインタラクション、コンセプトの面白さ、技術的な工夫についてはもう各所で語られているだろうと思うのでここでは割愛し、「見た目」のデザインについて書きます。

 

https://www.nintendo.co.jp/labo/kit/img/box_variety.jpg

任天堂公式webサイトより引用

 

DIYプロダクトの文脈(色とグラフィックのデザイン)

まず目を引くのが、段ボールを使ったtoy-conのスタイルです。これは今までにある「DIYプロダクト」のスタイルを踏襲したものに見えます。例えばkano computerTeenage engineeringのPOシリーズGoogle AIY Toolkitなど。

 

https://static.kano.me/assets/images/regional-homepage/product-listing/computer-kit-complete-shop.png

kano webサイトより引用

 

https://www.teenageengineering.com/_img/568be7c3bc9fa103000ab82d_512.jpg

teenage engineering webサイトから引用

 

 

どの例も基板そのものや段ボールの素材感をあえてそのまま生かし、ポップな色を加えることで魅力を生み出しています。Nintendo Laboでも、段ボールとその折り目を素材のアクセントとしてとらえ、そこにswitch本体のカラーリングにプラスαしたアクセントカラーを入れることで、楽しそう、かつちょっとクールな実験器具のような雰囲気を作っています。

ものの重要な要素であるグラフィックも、toy-conだけではなくパッケージ、webサイトまで統一されて製品のクオリティアップに貢献しています。可愛い…

「デコる」のはmt.のマスキングテープ的なお洒落DIYの影響が見て取れるし、このデザインは、現在ある「クリエイティブなDIYプロダクトのスタイル」をいいとこ取りしたものだと言えます。

そして「nintendo switchをセンサーとして使い、ハックする」というまさに任天堂にしかできないアイデアが乗ることで強いオリジナリティを生み出しています。

 

 

自分でも作れちゃいそうな感じ(かたちのデザイン)

Toy-conの形状も、まるで3Dプリンタで作ったような「各要素が大きい、低解像度なかたち」にして簡単に組めるようになっていながら、細かく設計された段ボールの折り目を形のアクセントにすることで、ただの紙工作に見えないハイクオリティな印象になっています。また、段ボールの耳や切り欠きなどの形状をシリーズで揃え、かなりバラバラな形状をしている各Toy-conの統一感を確保しています。

 

かたちのデザインでもっとも良いな〜と思ったのは「自分でも作れちゃいそうな感じがする」こと。公式webサイトにあるように、「ちょっとこわれても、自分で直せちゃう」と思えるような、良い意味でラフなデザインだと感じます。

 

www.youtube.com

任天堂webサイトより引用

 

これって実は難しいことで、普通デザイナーは「もっと緻密な、隅々まで考え尽くされたかたち」を作りたくなっちゃうと思う。そこでグッと踏みとどまり、ユーザー目線に立ち「自分でも作れたり直せたりしそうなかたち」を設計する。なぜなら、それがもっともこの商品に適切な最適解であるから、と判断できる点に、任天堂のデザイン力をひしひしと感じます。

 

実際に「ちょっとこわれても、自分で直せちゃう」かどうかはわかりません。でも、盛大に壊したToy-conを、お父さんお母さんと子どもが 泣き叫びながら(大げさかも)直す風景って、なんだか微笑ましくて良いんじゃないかな。

「自分でも作れそう」だからと言って、「自分でも作れる」とは限らない。おそらく多数の子どもユーザーは、その難しさに音をあげてしまうと思います。でも、そこで火がつく子も絶対にたくさんいるはず。もし新しい遊びを自作できなくても、「世の中のものってよくできてるんだな」と思うだけでも、重要な学びになると思います。

 

  

まとめ

・先ほどswitchを予約しました。

・Nintendo Labの実物を早く手にとってみたいです。

・こういう夢があって社会的インパクトのあるデザイン、ものすごく憧れます!!

 

YCAM COOKHACKワークショップのこと

もう一ヶ月近く以前になるが、仕事でお手伝いしていた山口情報芸術センターのワークショップ「COOKHACK」第一弾が開講された。(対象年齢は小学校4年生以上)

このワークショップは、山口情報芸術センター内部の研究開発チームであるYCAMインターラボが企画・運営するもので、今回ふしぎデザインは企画のアシストと小道具を中心としたデザインでご協力させていただいた。

学生時代に子ども相手のワークショップをしたことはあったけれど、だいぶ久しぶりだったので新鮮で楽しかった!

 

以下、記録も兼ねてどんな内容のものだったかを簡単に書いておきます。

 

 

ワークショップは二部に分かれている。前半は多数の調味料を味わい分け、お題と同じ味を調合し作り出すアイスブレイク「ワンプッシュスープ」を行い、「味」の世界の奥深さを体験してもらう。

 

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ちょっと見えづらいですが、ボトルのラベルも作りました

 

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味見タイム!たくさんの調味料を味見する機会って、意外とないのでは?

 

そして、後半ではいよいよ「COOKHACK」プログラムを体験する。野菜や果物をキューブ状に切り、それを生で味わったのち複数の方法と時間で調理。さらにそれを味わい、記録し、最終的には自分のオリジナルレシピを作ることで味の変化と調理の関係を探っていく。

 

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最初に生の食材を味わってみるステップ。ブロッコリーって生だとどんな味がするんだろう?

 

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味の変化を記録するシート。最初の案ではテーブルクロスのような大きなものでしたが、実験を繰り返してスリムに

 

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自分のオリジナルレシピを記録したシート。調理→試食→記録→創作までを一回で行う濃いプログラム

 

この構成にたどり着くまでに、実際のワークショップのような実験を繰り返しながら試行錯誤を繰り返した。

 

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実験の様子。蒸す、揚げる、焼くといった調理法を並行して行うためにはどうしたら良いかを検証する

 

どのように調理を体験してもらったら、面倒でなく、かつ楽しくなるのか。(→食材を切る工程は予め済ませておき、調理のプロセスに集中してもらう)あるいは、どのように記録したら味の変化をわかってもらえるか。(レーダーチャートで「甘味」「苦味」などを記録し、グラフの形の変化を見て取れるようにする)など、実験を通して少しずつ内容を洗練させていった。

今回のワークショップにおけるYCAM企画スタッフの中心である石川さんはUXの分野に通じており「いかにユーザーに良い体験をしてもらうか」を核に据えてプログラムを設計していく手法がとても参考になった。ワークショップをひとつのカスタマージャーニーと捉えて考え、プログラムの各段階ではタッチポイントとしての実践がある。そうやって整理することで、ワークショップの流れを俯瞰し構築しやすくなるのだ。

 

先に写真を挙げた各小道具も、情報の記録の仕方はどうするか、似たシートがお互い混ざらないようにするにはどうしたら良いか、どの程度のサイズにしたら使いやすい(見やすい)か、 など様々な要素を取り込みデザインを進めていった。

このような場合、YCAMのある山口とふしぎデザインのある東京で分かれて作業をするよりも、顔を突き合わせて一気に進めた方がうまくいく。そのため作業期間中に滞在制作をセッティングして頂き、その間はYCAMに出勤するような形でデザイン制作を行った。(余談ですが、温泉や美味しい店など色々とご案内頂いたのだった。ありがとうございます!)

 

それから、ワークショップの顔となるロゴマークも制作を行った。こちらは東京のグラフィックデザイン事務所Direction Qの沼本さんにお願いし、料理と科学のイメージを盛り込んだものを作って頂いた。調整もかなりお願いしましたが、おかげさまでとても良いものができました!

 

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 調理器具のイラストを組み込んだタイポグラフィと、化学式をイメージした背景のパターンを作っていただきました。

 

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制作頂いたロゴはワークショップ内プレゼン資料とレシピの表紙に使用しました!

 

ワークショップ当日、実際に子どもたちと一緒にプログラムを進めてみると、企画チームのデザインの工程を再確認できるようでとても面白かった。食材に触る瞬間や食べてみるときなどに参加者のギアが上がる瞬間があって、その時間に立ち会えてとても嬉しかった。

 

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 ひらめいた!

 

ワークショップを行う上では、山口で活動する料理研究家の津田多江子さん、またYCAMのサポートをする山口大学の学生スタッフ(ファシリア)の小林くん、野口くんにも大変お世話になりました。

何かを作って、それを体験してもらう(すると嬉しい)というのは、プロダクトだけじゃなくてワークショップも同じなのだと感じました。このワークショップの参加者が料理をするときに、その面白さを思い出してくれたら嬉しいです。

 

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YCAMがつくる教育プログラム「未来の山口の授業β」のひとつであるCOOKHACKは、今後もプログラムを洗練させながら継続してゆくとのことです。大学や企業と協力して行うことも考えて展開したいそうなので、いずれあなたの町にもCOOKHACKがやってくる日がくるかも!

 

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皆さまお疲れさまでした!

 

 Photo by 田邉アツシ

新年のご挨拶 2018

 

http://fushigidesign.com/sns/assets_c/2017/12/fushigi_2018_small-thumb-750x500-267.gif

 animation by kazuo

 

あけましておめでとうございます!
 
昨年9月に創業したふしぎデザインは、2018年も元気にお仕事をしていきます! まだまだ駆け出しではありますが、17年はメーカー、教育機関など様々なクライアントさんと一緒にお仕事をすることができました。そして、今年はもっと仕事の幅を広げていきたいと思っています。
対話すること、考えること、いろいろな場所に行くこと、手を動かすこと。 どんどん動いて、価値を生み出して、考えて… そんな1年を過ごせるよう、がんばります。 そんな意気込みを、友人のかずお(@kazuo)が素敵なムービーにしてくれました! グリーティングムービーにあやかって、景気良く走りだせたらと思います。 

 


~以下、2018年の目標~

 


1. スタートアップ、研究者、教育者の手助けをしたい
昨年の仕事の中で、「まだこの世にないものを作る」「デザインを通して見える豊かな世界を伝える」ということを考えている人は、メーカーだけでなく色々な場所にいるのだと知りました。独自のコンセプトを持って実装を行っている方をデザインの力でお手伝いすることは、18年の大きな目標です。



2. メーカーの製品開発に深く関わりたい

プロダクトデザイナーとして、工業製品の仕事にしっかり取り組むことにチャレンジしたいです。 製品を生み出す仕事は関わる人数も多く複雑で責任も重いものですが、外部プレーヤーのふしぎデザインだからこそ提供できる価値や視点もあります!デザイナーとして力を磨き、より多くの企業とガッチリ組んで新たな視点を提供できる力量を身につけます。



3. ロボット、AIに関わる仕事がしたい

人とモノを繋ぎ、人と人との関係を取り持つロボティクスとAI技術は、現代のデザイナーが取り組むべき大きなフィールドです。しかもまだ未開拓の場所も多く、混沌としていて楽しそう! ふしぎデザインが作りたい「エモーショナルな価値」を、この分野のプロダクトに実装できたら面白そうだな…と日々想像しています。


4. 多様なクリエイターと協働する

グラフィック、映像、空間、UXなど「デザイン」の領域はとんでもなく広く、そのすべてをひとりで旅するのははっきり言って無茶です。ですが、その時々に協力者を見つけ、チームを組織することでふしぎデザインの領域を広げたり、相手の仕事の助けになることはできそうです。昨年もそんな幸福な経験をいくつかさせていただきました。2018年は、もっと多くの人と関わる中でよいものを作るコラボレーションができたらと願っています。


というわけで、2018年もどうぞよろしくお願いいたします!

 

 

 

秋の鯖江に、デザイナーと作り手を訪ねて

つい昨日、福井県鯖江に住む友人の森くんのもとを訪ねてきた。

仕事で金沢に行く用事があり、そのついでにということで立ち寄らせてもらったのだ。

 

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北陸新幹線に初めて乗りました

 

大学時代の同級生である森くんは現在フリーランスプロダクトデザイナーをしており、職人や物作りに関わる人が多く暮らす鯖江を拠点に活動している。彼のセンスは学生の時からずば抜けており、ものづくりに対する真摯で率直な考え方は尊敬すべきものだ。部屋はだいたい散らかっているけど。

 

TOSHIRO MORI 

 

さて、国内の眼鏡の生産量95%以上を占める眼鏡の町として有名な鯖江だが、実は「越前漆器」という漆器も基幹産業の一つして存在する。市内の河和田地区を中心とした産地全体で分業体制が確立しており、木地づくり、塗り、蒔絵や沈金などの工房が点在しているという。(詳しくは当地にあるうるしの里会館のwebをチェック!)

越前漆器協同組合 | うるしの里会館 

 

今回、そのような木地工房のひとつであり、自社製品も手がけられている「ろくろ舎」さんを、森くんの案内で尋ねる事ができた。

 

rokurosha.jp

 

ろくろ舎さんは通りから一本入った道沿いにあり、木工ろくろを使って木地を挽く工房の隣に、ご自身でセレクトしたものを扱うショップが併設されている。工房の棚には粗挽きした漆器の原型が乾燥のために積まれており、部屋中にある木材が光を吸収して、あたりはほの明るく照らし出されている。

 

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木工ろくろを使って木地をつくるところを拝見したのだが、これは本当にすごい仕事だ。

鉄の丸棒から自分で鍛え上げる(!)という工具を使って、木の椀を少しずつ加工していく。ろくろを回し、工具を回転する木地にあてると少しずつなめらかに削りとられる。削るたびに型紙を使って形を合わせ、理想の形に近づける。木地の表が仕上がったら次に裏を削る。しかもそれを何回も繰り返す!

 

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自分たちの手で丸棒から刃物を鍛え、それを使って製品を仕上げる。ものづくりの基本を見る思い

 

プロダクトデザインという自分の仕事の中では、模型をつくることはあっても製品をつくることはない。デザイナーは他者と協力して成果を生み出す仕事であり、製品開発プロセスという大河のほんの一部にしか関われないことがしょっちゅうだ。だから、自分たちの手でプロダクトを考え、生み出す酒井さんたちの仕事ぶりには本当に圧倒されてしまった。 

 

前述の通り、ろくろ舎さんでは伝統的な木地師の仕事に加えて、自社でデザインした製品も販売している。それがまた、たまらなく魅力的なのだ。

Webサイトでも販売している「TIMBER POT」は、杉の間伐材を使って作られたポット。

塗装を施していないので、屋外で使ううちにひび割れ、痛み、朽ちていくが、それが一品一様の景色を生むというもの。真新しいものも美しいが、雨に濡れて変色したポットに植物が植えられていると、まるで流木に植物が自生しているように見える。工業製品というより、たまたまポットのかたちをしている自然物のようだ。家の植物を植え替えたくて、僕もひとつ購入させていただきました。

 

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ちなみに、森くんも一点もののポット(と、花器の中間のようなプロダクト)を購入していた。こちらも素敵だった…!

 

 

酒井さんと森くんの3人で、ろくろ舎さんのショップに置いてあるものを見ながら色々な話をすることができた。「良いもの」はどんなものかということ、それを作るにはとても時間と手間がかかること。ある素材に取り組みスタディを重ねる中で、ある時その魅力が引き出せる様になること。良いものの魅力を言葉にして説明するのはとても難しく、その言葉は不完全だということ。

 

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ろくろ舎さんのショップでは、木製品以外にもセレクトされた品を扱っている

 

ものの美的な魅力というのは複雑なもので、「貴金属を使っているから高価である」というような説明しやすい魅力もあれば、盆栽や茶道具の微細な意匠を愛でるような、説明しづらい魅力もある。また、有名アイドルのサイン入りCDのような、ものに付加された情報が美的な魅力につながる場合もあるだろう。

工業デザインの仕事では、往々にして「言葉で説明できる美的価値」を生み出すことを求められる。新しいものは見ただけではその価値を理解できないこともあるが、言葉で説明できるとその価値を伝えることができるためだ。

 

ただ、言葉で説明できる価値を作ることばかりに慣れてしまうと、作っているものが「言葉を形にしただけの、スカスカのもの」になってしまう。3人で言葉を交わす中で、自分の中にあるその危うさを再認識することができた。

「良いもの」は、作り手が粘って探って未踏の地にたどり着くことで生まれるものであり、工業デザイナーの武器は言葉よりもものであるべきだ。

 

 それを肝に命じて、僕も自分の仕事に戻ろう。

大変な時代を遊ぶ

もう2ヶ月ほど前になるが、大阪で友人のイラストレーター・漫画家のイシヤマアズサさんとお話する機会があり、お互いの仕事などを話す中で、ひとつ面白いお話を聞いた。

 

イシヤマさんの最新作。生活の喜びとかなしみが詰まっていてすばらしい。みんなで読もう

 

 

 穏やかで豊かな生活

漫画や小説のテーマとして、日常生活と食事にフォーカスを当てた作品が最近非常に広がっているという。

そのような作品に共通しているのは、誰かが生活し、その中での食事の風景をドラマに仕立て豊かな日常生活を描くということ。例として「きのう何食べた?」とか「花のズボラ飯」、「甘々と稲妻」などが挙げられるという。いわゆる日常系漫画と料理漫画がくっついたものだということもできるかも?
イシヤマさん自身も料理をする漫画(「真夜中ごはん」など)を描かれていることもあって自然と動向には詳しくなるようだったが、最近は競合が氾濫してきており、差別化をするのが大変だと話していた。

 

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大阪に住んでいたとき、友だちを招いたときの食卓(イメージ画像です)


ふむふむと話を聞くうちに、この事情はライフスタイルショップの隆盛に似ているなあと思いあたった。
衣食住すべてを横断的に扱い、生活のスタイルそのものを提案する、という業態は、2012年か13年くらいからよく見るな~っと思っていたら、雨後の筍のように増えてすっかり当たり前になってしまった。
最近では、バルミューダパナソニックソニーなどの家電業界でも「生活」―もっと言うなら、「穏やかで豊かな生活のイメージ」を魅力的なものとして提案し、それは一定の評価を得ているようだ。

漫画のジャンルと店舗の業態という違いはあるが、なんとなく、これらは同じような現象に見える。多くの消費者、生活者が、「穏やかで豊かな生活」を欲しがっているのではないだろうか? 

 

www.balmuda.com

 

 

欲しいもの=手に入りにくいもの?

話は変わるが、メーカーで働いているとき、過去のカタログや企業博物館で自社製品の歴史を見る機会があった。
ひとつひとつの製品を個別にデザインしているとわからないが、まとめて振り返ると、製品のデザインは「時代ごとの『欲しいもの』のイメージ」を形にした結果として生まれてきたのだ、ということを感じ取ることができる。


例えば70年代のカラフルな製品からは明るい生活と欧米への憧れが、80年代の「マイコン」製品からはデジタル技術と好景気への期待がにじみ出ているようだ。
そして、時代ごとの「欲しいもの」は、「その時代に手に入れにくいもの」のようなのだった。例えば、みんなが小さい家に住んでいるときには広い家を欲しがり、安い車に乗っているときには高級車を欲しがり、大量生産品に囲まれているときには手づくりの工芸品を欲しがるというように。

これは裏付けのない僕の思いつきなのだけれど、もし「たくさんの人が欲しがるものは、その時代に手に入れにくいもの」という仮説を立てるなら、2010年代後半に手に入れにくいもの、それゆえにみんなが欲しがるものは、まさに「穏やかで豊かな生活」なのではないだろうか?

もしそうなら、これはなかなか大変な状況だ。

 

 

欲しているものは

今年の6月に発売されたtofubeatsのアルバムFANTASY CLUBに収録された楽曲「WHAT YOU GOT」を聴いて、ああ、この時代に困難さを感じているのは自分だけではないのだと改めて感じ、なんだかほっとしてしまった。

 

www.youtube.com

 

この歌に登場する「君」は、なんとなく生きづらいこの時代に生きる若者の気分を代弁しているようだ。
この歌の向かう方向は希望だけれど、位置する場所は神経質に苛ついた生活の中だ。
歌詞を初めて通して聴いたとき、あまりに時代の気分をよく捉えていて、しっくり来たと同時にやるせない気持ちになった。
だって、電話越しの「君」は、ときに何かを欲しがるだけの元気すらも持てないくらい消耗してしまっているようだったから。

 

 

何が食べたいとか
そのくらいも決められないなら
欲してるもの 手に入れられてるかって
もうそんなの気にしないで
もうそんなの気にしない

 

 tofubeats「WHAT YOU GOT」より

 


大変な時代を遊ぼう

自分を省みても、フリーランスになったばかりで生活が不安定なこともあってなんとなく不安をひきずってしまうことがあるし、仲の良い友人たちをみても同じように感じることがある。
明日が今日よりも良くなる保証はないし、今日よりも悪くなってしまうかもという予感すら、ないとは言えないだろう。そういった不安の中で、「穏やかで豊かな生活」を欲しがるのはとても自然で良いことに思える。

ただ、同時になんとなく感じるのは、「穏やかで豊かな生活」は、「神経質に苛ついた生活からの逃避」以上のものになりづらいんじゃないかということだ。SNS上では素敵な暮らしのイメージが飛び交っているけれど、僕は写真のフレームの外にちらつく、どうしようもないやるせなさの影を無視することができない。
そりゃそうだ、元々暮らしというのはそういうものだと言うこともできるかもしれないけれど、不安を覆い隠すように見える美しい暮らしのイメージが溢れすぎて、ちょっと食傷ぎみなのです。


そこで、そこから進むためには何が必要なのかなと考えた。

それは、自分たちで新しい時代を作ることなんじゃないだろうか?
単純すぎる解決策だし、そもそもできるのかどうかもわからないけれど、挑戦してみる価値は十分だ。

新しいものを作るには体力も、お金も、センスも要る。
だから、こんな不安定な時代にそんなリスキーな挑戦に身を投じるのはどう考えても合理的じゃない。普通に考えたらやめた方がいい。でも、だからこそ、知恵をはたらかせて良いアイデアをひねりだすのはとっても楽しいんじゃないか?

 

この大変な時代は、面白い遊び場だ。

そう言ってしまうのは少しナイーブに過ぎるかもしれないけれど、
挑戦すればきっとうまくいくよ!

「かみの工作所」の福永紙工さんにお邪魔しました

東京の立川にある紙の印刷・加工企業、福永紙工株式会社を訪問してきました。

 

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工場の隣に建つショールーム。オリジナル製品をはじめカラフルな紙製品が並ぶ

 

福永紙工と「かみの工作所」

福永紙工はパッケージ制作や複雑な印刷加工に強いとのことで、もともとの事業の中心は各企業から受託する印刷と加工だそう。工場にお邪魔したときは、ファインペーパーや箔押しを使ったパッケージや企業の名刺などを作っているところでした。

今回ご対応頂いた営業部の渡邊さんと、大学の先輩でもある工務室の宮田さんによると、差別化ポイントは「クオリティで攻めること」で、他の会社では難しいような高度な加工も手がけているとのこと。特色印刷、折り、型やレーザーによる切り抜きなどを組み合わせて、リッチな印刷物や紙箱を作り上げているようです。

 

そしてもう一つの特色が、印刷加工企業としては珍しい、自社製品の開発と販売を行っていること。デザインに興味がある方なら、「かみの工作所」や「テラダモケイ」というブランド名を聞いたことがあるかも?

 

www.kaminokousakujo.jp

 

「かみの工作所」は、デザイナーとコラボレーションしてできる、紙の道具の可能性をさぐるプロジェクト。スタートしてから10年程度とのことでしたが、ショールームを埋め尽くすほどのラインナップを持っており、事業としても受託印刷に対して約3割の大きさにまで成長しているのだとか。すごい。

 

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印刷、型抜き、箔押し、エンボス、貼り加工によってバリエーション豊かな製品が生まれる

 

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大ヒット製品、トラフ建築設計事務所による「空気の器」は、きれいな形に立ち上げるには、フチの最後の一本まで丁寧に広げるのがコツだとか

 

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雑貨店などでよく見る「テラダモケイ」は、100点のシリーズ化を目指し現在78点まで到達とのこと

 

一概にオリジナル製品を作るといっても、ここまでラインナップを広げ、センスよく展開していくのは相当難しいはず。それを実現しているのは、渡邊さんがおっしゃっていた「アパレル出身の社長がデザイン好きだから」ということだけでなく、会社全体にクオリティに対するこだわりがあるのかな、と勝手に想像してしまいました。

 

それから、僕が大学1年生のときに研究室で副手をされていた宮田さんと久しぶりに再会できたのも嬉しかった。

宮田さんは外部のデザイナーと工場の間を取り持つ仕事をしており、「最初のアイデアがそのまま量産可能なものはまずない」というデザイナーのアイデアをいかに実現し、量産対応するかを考えることが多いとのこと。

メーカーにいたときもそうでしたが、違った意見を持った人たちの間を取り持ち調整する役割は想像するだに大変。でも、宮田さんは相変わらず、まるで全然大変じゃないかのように仕事の話をしているのでした。なんというか、「先輩」を感じます。。

 

 

工場見学タイム

今回、ショールームだけでなく、工場の現場も見せて頂きました。

印刷から加工まで、ほぼすべての工程を自社で完結できるそう。どこの工場もそうですが、カッコいい機械が目白押し。とにかく写真を見てください!

 

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4色のオフセット印刷機。CMYK(シアン、マゼンタ、イエロー、黒)で刷るときもあれば、特色を4色入れることもある

 

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これがいわゆる「特色」。インキメーカーのインクをレシピ通り調合し、指定の色を特別に作る。刷る紙の色によって色味も変わるので、最後は職人さんの目で調整を行うそうです

 

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紙箱を作る巨大な機械。片方の端に紙をセットすると、指定した条件通りに折られ、糊付けされて組み立て前の状態にまで自動で加工される。ちなみに右端の方が宮田さん

 

折られてますね〜 機械を動かしだすまでの、設定の作業にとても時間がかかるらしい

 

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ホットメルトで紙を糊付けし、箱に組み立てる機械

  

「テラダモケイ」を製作中のレーザー加工機。こ、細かい

 

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箔押し機。金銀などの箔やカラー箔、空押し(エンボス)の加工が可能

 

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大きな断裁機。荒取り用と仕上げ用の2台を使い分けているそうです

 

f:id:keita_ak:20171024221901j:plain工場のフロア。パレットの上に紙の塊が積まれている

 

 

…とこのように、工場をすみずみまで見せて頂きました。

飛び込みでお訪ねしたのに、とても丁寧にご対応して頂き嬉しかったです。さらに、図々しくも工作用のダンボール紙まで頂いてしまいました。(何か作ったらお見せします!)

こんな意欲的なところとお仕事ができるように、腕を磨いていこう…!

記事内の写真は許可を得て撮影しています)