Oracleスピーカーのメイキング
ひょんなことから手に入ったかなりレトロな露出計(https://t.co/FeYTNYupwk)の筐体をリメイクしてスピーカーにしています。スピーカーとアンプはキットで、グラフィックと前面パネルはオリジナルです pic.twitter.com/mF5HTJo5SK
— 秋山慶太 (@keita_ak) 2017年2月8日
先日、友人の佐藤きみちゃんと難波さんの電子音楽ユニット「Mother Tereco」の1stアルバム「Oracle」がついに発売された。それに合わせた勝手な応援として、Mother Terecoのお二人に贈るつもりでこんなスピーカーを作ってみた。
Mother Terecoの音楽は、アナログシンセやフィールドレコーディングされた音が緻密に構成されていて、とても職人的でカッコいい。是非聴いてみてください。(勝手に広告)MVもソリッドで、彼らの世界観にばっちり合ってる。
せっかくなので、これをどうやって作ったかを書いてみたい。
以下のノウハウは僕が趣味の工作をする上で使っているものなので、プロのものではありません。でも、自分のアイデアを形にしてみたい学生さんとか、趣味のものづくりをされている方にはちょっと参考になると思う。
意外と安い金額で作ることができるので、興味のある方は自分でもオリジナルのプロダクトを作ってみてほしい!きっと楽しいよ。
1. 機能する部分をつくる
今回作ったのは、電気的にちょっと詳しく言うと「外部入力付きのアンプとスピーカーをつなげたもの」なので、まずはそれらをなんとかしてでっち上げることが必要になる。
とは言っても、僕は回路設計とか電気のことは門外漢なので、電気街に走りキットを購入してきた。大阪日本橋のデジットというお店で売っていた、「低電圧オーディオアンプ」というキット。1500円くらいだったと思う。
これがなかなかの優れもので、単三電池2本で音楽を聞くことができ、こんなに大きい音が出るのかと驚くほどしっかりした音が出る。音質は大したことないですが、そのあたりを追求しだすときりがないので、お財布事情との相談して決めてください。スピーカーは以前作ったラジオキットに付属していたものを分解して再利用することにした。
中央の小さい基板が心臓部で、そこから電池やスピーカー、ボリュームなどにつながる
キットの部品点数が少ないので、はんだ付けが初めての人でも組み立てられると思う…多分。
これで音が出る状態になった!
2. 見た目のデザイン
最初のツイートリンクでも触れたように、今回制作したスピーカーのガワは、壊れた露出計の筐体を再利用している。
だからオリジナルのデザインとは言えないかもしれないけど、ここでは自分の作った部分のことを簡単に説明します。
2-1 露出計を計測する
先ほどの露出計にはまっていた鉄板をとりはずし、その寸法を計る。定規などでももちろん良いけれど、もしあればノギスで測ったほうが正確な寸法が得られると思う。(工業製品の中には「36.5mm」とか、微妙な寸法がけっこう存在するし、正確に測らないと後で組み立てられない)
測った寸法を無料かつ高性能の3DCADであるFusion360で図面化し、完成形をイメージしてみる。
これでひとまず大体の形はできた。
(ただ、上のパーツの曲げがこんなに綺麗にできないことを後に知ることとなる…!)
2-2 パネルのデザイン
どんな見た目にしようかな〜と悩む。一番面白いプロセスかも
できたデータをFusionの図面機能で二次元図にして、さらにPDF書き出し機能を使ってIllustratorで読み込めるデータに加工する。
Illustratorで読み込んだあと、パネルの柄やスピーカーの穴の形など、どうすればカッコよく、使いにくくなくなるかを考えながら、部品や文字を配置していく。「Oracle」の文字は、手描きしたものを撮影して取り込み、上からなぞってパスデータにした。
スピーカーの周りには、Mother Terecoの音楽をイメージしつつ民族調の幾何学柄を配置。
2-3 試作品作り
金属パネルを作る際に、Illustratorで作ったパスデータを安く切ってくれる「きりいたドットコム」というサービスを使った。安いといっても、上下のパーツを切ってもらったら5000円くらいするので、できれば一発で完成品を作りたい。そのためには、試作品を作って見た目や機能を検証する必要がある!
コピー用紙にプリントしたパネルの図を厚紙にスプレーのりで貼り付け、切り抜いて部品をのせてみる
ということで、作ったデータを出力しボール紙の簡易モデルを作ってみた。
それを露出計のガワにはめてみたのが下の写真の状態だ。
けっこう完成品イメージできるのでは!?
ボツ案。Braunの真似をしてシンプルイズベストなデザインにしてみようという出来心で作ったものですが、スカスカになってしまいシンプルの難しさを知る
試作品を作ってわかったことがあった。
2枚上の写真のようにスピーカーをむき出しにして配置すると、中音域がかなり強く出てしまい、耳が痛い感じの音質になってしまう。これを防ぐため、金属板の後ろにスピーカーを配置し、板に穴を開けてやることで、中音域をちょっと減らしてやる工夫をした。(そういえば、もともとのラジオキットでもそういう風になっていたな、と思い出したり)
もうこれで良いのではと一瞬思わなくもない…でも紙なのでへなへななのです
その工夫を盛り込んだボール紙モデルがこちら。上のパーツと下のパーツの間にすき間をつくり、iPhoneを入れられるようにした。(この段階ではそうだった…)
2-4 アルミ板と印刷物の発注
さて、これで完成品を作るための素材となるデータが出揃った。つまり、
A アルミ板を切り抜くための図面データ
B 切った板に印刷するための版下データ
だ。
趣味でやってる人間としては、これらをできるだけお安く加工していただきたいところ。先程も少し触れたが、Aについては、「きりいたドットコム」 の、オーダーメイドカット加工を使った。
Aiデータを送ると無料でいくらかかるかの見積もりをしてくれる。すごい!
これが見積もりの際に送ったデータ。
するとすぐに返信が来た。2つ合わせて、送料込みで5000円ちょいといったところ。僕はものすごく安いと思います。
ちなみに、素材は「アルミ5052」の1mmでお願いしています。
ありがたいことに一部寸法がずれていた部分を指摘して頂いたので、データを修正して再度送る。入金手続きをしてから到着までは、土日を除いた営業日で3〜7日かかるとのことでしたが、今回は日曜に入金手続きをして、次の金曜には部品が届きました。やった!!
印刷する文字データは、2つに分けて発注をした。細かい文字など精密な部分は、プラモをやる人にはおなじみの「インスタントレタリング」と呼ばれるシールのようなもので、柄や大きい文字はシルク印刷で作ることに。
シルク印刷は値段も低く、乾けばこすれても剥がれにくいというメリットがあるが、素人クオリティでは10pt以下程度の細かい文字を印刷するのには向いていない。インレタ(インスタントレタリング)はめちゃくちゃ細かい文字や細い線も再現できるが、爪で引っかいただけで剥がれてしまうので、使う箇所は最小限にとどめたい。なので両者を組み合わせてみました。
ちょっと見えづらいけど、これがインレタ。検索すればネットで作ってくれるところが見つかります。こちらは2000円くらい。はく離紙の上に乗った状態で送られてくるので、切り取ってテープで位置決めをし、シートの上からこすって対象にくっつけます。
こちらが残りの印刷する版下。Illustratorで作っていたデータから、必要な部分のみを切り出してきたことが分かるでしょうか。
これはシルク印刷で表現できるので、関西のみなさまにはおなじみ…かもしれない、「レトロ印刷JAM」の製版サービスを利用。Tシャツやトートバッグなどを作るためのシルク簡易版を格安で作ってくれる。すごいぞ!
手元に以前使ったときのフレームがあったので、今回はSサイズの製版(データを元に印刷できる版をつくること)のみをお願いして、送料込みで2000円ちょい。安い!
こちらは一週間もかからず、データを出して決済したあと3日位で到着しました。
さて、ここまでやって、やっとすべての素材が手元に揃った。
組み立てるぞ!
3. 組み立て
大雑把に分けると、ここには以下のプロセスがある。
・パネルの塗装、印刷
・各パーツを組み立てる
順を追って説明します。
3-1 パネルの塗装、印刷
アルミ板の塗装はスプレー缶を使って簡単にする。
大きなゴミ袋を使って簡易塗装ブースを作り、その中で塗る。一度で塗ろうとすると必ず失敗するので、3回くらいに分けて薄く塗り重ねるのがコツ…だと思います。詳しく知りたい方は、フィギュアとかプラモ業界にはノウハウが山ほどあるのでそちらを当たってみてください。色はつや消しブラックを使用。
パネルとネジが塗れました
そして、シルク印刷!
刷れました
…シルクは一発勝負なので、やってる最中の写真が撮れなかった。
こう書くとサラッと成功しているみたいだけど、実際は一回ずれて失敗している。インキはTシャツなどに使うRISOの水性インキを使っているので、失敗してもすぐに水で流せばなかったことにできるのが良いですね。
インレタを貼って部品を装着し、下のパネルは完成!
3-2 上のパネルを曲げる
今回の鬼門となったパネルの曲げ。
最初は、簡単なガイドを使って以下のように曲げてみた…が、曲がり方が均一にならず、失敗。この写真ではきれいにできているようにみえるけどダメな仕上がりに。これではMother Terecoには渡せんぞ…!
ということで、もっとしっかりした簡易ベンダーを作ってリトライ。😂
悔しいのでホームセンターに走り簡易的なベンダーを作りました(実際はこれでもあまりうまくいかなくて、さらに改良した) pic.twitter.com/qddukAuZ6F
— 秋山慶太 (@keita_ak) 2017年1月28日
このあたりはまだノウハウとして確立できていないので詳しくは書きません。むしろもっとピシッと曲げられる方法を知りたいので教えてほしいです。
3-3 各パーツを組み立てる
こうして
こう!
2枚目の写真をよく見て欲しいのだけれど、ボール紙試作のときにあったiPhone用のすき間がなくなってしまっている。これは、紙だとピシッと折れていたが 、1mmのアルミ板を人力で曲げた時にピシッと(角を小さくして)曲げることができなかったために起こった問題。
本来ならばさらにアルミ板を再発注して試行錯誤するべきなんだろうけど、お財布事情の問題と、なによりアルバム発売日までに完成しなくなるので今回はあきらめました。
あとは写真をキレイに撮って…完成!
Mother Terecoのお二人にも喜んでもらえて、ファンとしては大変光栄でした。
記事の最初にも書きましたが、こういうDIYってなかなか面白いです。
一度でも何かを作ってみると、いつも使っている工業製品がいかによくできているかが分かったり、これも人間が作っているものなんだなあ、など様々な気付きがあるのでおすすめです。趣味としてもなかなか良いと思いますし!
もし、自分でも何か作ってみたという方がいましたら、教えていただけると嬉しいです!