ふしぎデザインブログ

デザイン事務所「ふしぎデザイン」の仕事やメイキングについて書くブログです。

もののけはどんな姿をしているか(もののけデザイン3)

 「もののけ」をデザインするにあたって、前々回では「もののけとは何か?」ということ、前回では「もののけとプロダクトの共通点」について触れた。

 

keitaakiyama.hatenablog.jp

 

そこで、今回はこれまでの展開を踏まえて、「もののけプロダクト」はどのような形をしているのか?というトピックについて考えることにする。

 

「ひとがた」という考え方

人形(にんぎょう)というものがある。

人のかたちを模して作られたもので、子どものおもちゃとして使われたり、過去には呪術の道具や身代わりとしても使われたものだ。仏像をはじめとした偶像もこれに含めてもよいと思う。

 

人形には、雛人形やドールのようなリアルなものから、こけし陰陽師が使う形代のようなデフォルメされたものまで、バリエーションがほとんど無限に存在する。

これらは「人のかたちを真似る」という共通のデザイン要素を持っている。その目的や用途は様々だが、人のかたちを取り入れることで、ものに感情移入させたり親しみをもたせたりすることができたのだろう。実際にそれが作られたときには、そんなことは考えられていなかったとしても。

人形は「ひとがた」という言葉で言い換えることもできる。このブログの文章の中では、いわゆる「ぬいぐるみ」を指す「人形」と区別するために、人のかたちを真似た一連のプロダクトを「ひとがた」と呼ぶことにする。(ところでカタカナの「ヒトガタ」で検索すると、都市伝説が出てくるのでおすすめしません…笑)

 

僕は、「もののけプロダクト」のかたちは、ひとがたをベースにしたものがよいと考えている。初回の文章で例に挙げたロボホンやpepper、boccoなどのように、人の暮らしの中にある知性あるものは、人に準ずる形をしている方が自然に受け入れられると感じるからだ。

ただし、その形状は、ドールやマネキンのような、人の容姿をトレースしたものではなくて、こけしやだるまのような、人の容姿をデフォルメしたものとしてデザインしたい。

これは個人的なデザイナーとしての勘に基づくものなのだけれど、あるプロダクトがあんまり人に似ていると、人のフェイクのような印象を与えることになってしまい、ユーザーを怖がらせたりしてしまいそうだ。それよりは、「人っぽい」くらいの印象のかたちの方が、使う人も「自分たちとは違うやつらなんだけど、仲良くしてくれそうだな」と感じやすいと思う。

 

 

「ひとがた」を「ひとがた」たらしめる要素

さて、ひとがたをデザインするにあたって考えておきたいことがある。

それは、「どこまでデフォルメしても、あるプロダクトを『ひとがた』だと認識できるだろうか?」ということ。もうちょい噛み砕いて言うと、「何があれば、ものを『ひとがた』にできるんだろう?」ということ。僕たちは、リアルな人形や仏像を見た時に「これは人のかたちなんだな」と判断するのは簡単するときと同じように、こけしや埴輪を見たときにも「人のかたち」を読み取ることができる。人がなにかを「ひとがた」と判断するためには、何が必要なんだろう?

それを考えるために、2つの先行事例について触れることにする。現代美術家内藤礼による彫刻作品「ひと」と、江戸時代の仏師円空による一刀彫の仏像群だ。

これら、極限までシンプルに削り落とされた「ひとがた」を見ることで、何がひとがたを成り立たせているのかがわかるかもしれない。

 

 

円空の仏 

 円空は全国を旅しながら、その土地その土地で仏像を彫る仏師だった。小学館ブックオブブックスの「円空と木喰」という入門書によると、”大寺院の高級僧侶ではなくて、庶民の要望から生まれ、民間信仰的なものを反映した半俗半僧的な下級僧侶であったと思われている”らしい。

 

 

その作風は特異で、いくつもの部品を組み合わせる寄木造ではなく、ひとつの木の塊から像を彫る一木造(一刀彫)という手法で彫刻を行っていたようだ。造像のプロセスで特筆すべきはそのスピードで、ときに一日のうちに彫刻を完成させるような速さで制作したという。

作業を速く進めるためには工程をシンプルにしなければならない。すると自然と成果物もシンプルになる。なたや大きなのみが生み出す造形は荒々しく、人物の表情は極限まで単純にデフォルメされている。

 

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小学館ブックオブブックス「円空と木喰」p158

 

 上に載せた像は、もはや仏像というより木の塊といったほうが近いような、非常に手数の少ないものだ。割れた木目の流れの中に、ほんの少しだけ手を加えて顔を彫り出す。それだけでも、人はひとがたを感じることができるようだ。

 

 

内藤礼の「ひと」

二つ前のポストでも触れた現代美術家内藤礼さんの近作に「ひと」という名前の連作彫刻がある。

 

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2017年5月 資生堂ギャラリーにて撮影(撮影可の展示)

 

手のひらの上にちょこんと乗るくらいのサイズで、バルサ材を削って眼を入れただけの素朴な作りの彫刻なのだが、一度それに気づくと目を離せなくなるような不思議な存在感がある。上でも書いたように、「ひと」という名前の作品は一つだけではなく、手足のあるものやないもの、長い髪をもった女性のようなかたちのものなどバリエーションがある。

作家本人がこの「ひと」について話している文章をいくつか読んでみたところ、造形上のポイントに触れている箇所があった。ひとがたを成立させているのは、首のくびれと眼だという。

 

球体のような彫刻をつくるときと違って、人の場合はなんていうか、たとえば首のところを木から少し削りだす、するとそのことだけでグンと人が表に表れてきます。木でありながら、木から突然。 

 里文出版「信仰と美のかたち 可視化された神の像」P169

 

内藤 人形(ひとがた)を作る時、私は、立つ形をずっと選び取ってきました。座ったり、横になっている像は一つもなく、何かに寄りかからず立っていて欲しいという思いがあるからです。これまで350人ほど作りましたが、そのひとはそのひとでしかないという個性が現れるのは、目を入れた時だと感じます。

 

中村 今もお話ししていると目を見ますものね。

 

内藤 今まで作っていた抽象の作品と明らかに違うのは、人形(ひとがた)には前と後ろという方向性、頭から足へ貫く軸があるということです。目が入ると、明らかにこちらを見ているひとだと、何かを見ようとしているひとだというふうに感じるのです。

JT生命誌研究館webサイト 生命誌ジャーナルTALK「地上の光と生きものと」より引用  


 

首のくびれ、そこから現れる頭の形。そしてそこについている眼と、それが表す視線。

江戸時代と現代、生きた時間は違うけれど、二人の作家が作り出した「極限までシンプルなひとがた」の要件は似通っているように思える。

つまるところ、ひとがたとは「眼のついた顔」のことなのだ。

 

 

人の心を動かすひとがたの姿

もののけをデザインするにあたって、シンプルなひとがたの姿を使いたいというだけでは、要するに人形がしゃべったりするのとあんまり変わらない。

もっとエモい、ドキっとするものはないかなと考えていたときに、Twitterで面白い作品に出会った。知り合いのイラストレーターましゆさんが作った、女の子のイラストレーションがアニメのように動くアプリだ。

 

 

いわゆる萌えの文脈にある「Live2D」というツールで作られたもののようで、ましゆさん本人も他のツイートで触れていたように、ただの映像なのに実在感がある。

この実在感はツールの性質に基づいているようで、まばたきや身体の微妙な動きなど、生きものっぽい動きをよく観察して実装できるようになっている。ドキっとする…しませんか?ただ、人によってはこの動きに、不気味の谷的な気持ち悪さを感じることもあるようだ。

…というか、僕もこのソフトを触ってわかったんだけど、「絶対に『嫁』を生きているように動かしたい」という製作者の執念を感じる。すごい。

 

www.youtube.com

 

嫁の話はさておいても、このツールとプロジェクターを使うことで、ひとがたの最小条件である「眼のついた顔」を、いろんなものをベースとして作ることができるなと思いついた。そこで作ってみたのが、次のようなプロトタイプだ。

 

 

 眼の動き、瞬きが「ドキっとするひとがた」なのだとして、それを「もの」に付加させることができたら、より深くユーザーをものに感情移入させることができるかもしれない、という意図で作ってみたのだけれど、どうだろう。どんな風に見えますか?

 

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投影するものの違いで違ったキャラに見えるような… 

 

今の眼はLive2Dのチュートリアル用フリーイラストを使っているので少し萌えっぽい雰囲気があるけれど、これをもっと他のタッチで作ることができれば、もっと広い好みのユーザーに面白がってもらえるものになりそうだ。

 

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タネ明かし。aliexpressで買った安いプロジェクターを分解して、小さい像を投影できるようにしている

 

 

というわけで、今回はここまで。自分の考える「もののけ」の形がだんだん浮かび上がってきた。ここからは、テキストを参照して考えるというより、プロトタイプの制作を繰り返して実験していく段階になると思います。

どんな風に発展させていこうか、楽しみだ。