ふしぎデザインブログ

デザイン事務所「ふしぎデザイン」の仕事やメイキングについて書くブログです。

相模原とローカルについて


「日本の風土、価値観をデザインに反映させる」
とてもよく聞く売り文句の一つです。この列島で育んできた簡素かつ豊かな文化を現代に合うように再構成し、暮らしに取り入れる。それはどんなに素敵だろうと考えるデザイナーは多いんじゃないか。
しかし、みんなが呪文のように唱える「日本」は一体どこにあるのでしょうか。 東京?京都?それとも他のどこか?



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去年大阪に移るまで、神奈川県の相模原という土地に住んでいました。相模川のほとりから広がる広い平地にいくつかの工場があり、主要な駅の近くは東京に通う人たちのベッドタウンになっている、これといった名所もないどこにでもあるような町です。
僕は自転車でぶらぶらするのが好きだったので、中学、高校生のときはよく相模川のほとりをうろついていました。川の近くには小さな森、キャンプ場、セメント工場や産廃処理場があり、川から離れた平地には畑、工場とささやかな娯楽施設、国道沿いにはチェーンのファミレスやカーディーラーが立ち並ぶ。


 

 



駅近くの家から離れた場所を自転車で走るのはちょっとした探検のようで楽しかったのですが、誰かが作ったイメージをぺたぺたと貼り付けたような風景、大自然のあるわけでもない郊外を完全には好きになれなかった。いろいろな本のなかにあるすてきな日本とは、ここはちょっと違うよなあと思っていました。

大学生になりデザインの勉強をするようになると、その思いはいっそう強くなります。日本に生まれた人間として、日本のローカルに興味があるものの、自分にはそんなルーツはない。もし「日本的な表現」を試みたとしても、それはただのコピー&ペーストになってしまうんじゃないか。それこそ相模原の風景みたいに。

しかし、学年が上がりだんだんと自分の世界が広がってくるうちに、相模原のことが好きになってきました。相変わらず冴えない町でしたが、すてきな風景の絵はがきを乱暴に貼りつけたみたいな「日本の文化を取り入れた」デザインをいろいろなところで見かけるうちに、自分の住んでいる土地が、逆にとてもリアルに感じられるようになってきてしまったのです。




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四年生になり、卒業制作に取りかかるときにこっそり考えていた裏テーマは、相模原のローカルを表現するということ。有田で育った人間が焼き物をするように、相模原で育った自分はどんなことをすれば面白いのか。インスタントに作られたぺらぺらなイメージをベースに育って、いわゆる日本的でない日本の、生のものを作ることはできるのか?

結局、卒業制作は電子楽器を作りました。
原始の楽器を作るように電子楽器を作ることを目指し、体感的な操作で楽しく演奏できる楽器をたくさん並べ、プレゼンはライブ形式で行いました。電子部品以外のすべての材料は地元のホームセンターで買ったベニヤや廃材、リサイクルショップでかき集めた既製品を組み合わせ、あえて仕上げはラフに。完成イメージは相模川の河原で撮影し、そのへんの物好きが寄り集まって作ったような雰囲気を出そうと努力しました。






工業デザインの学科の卒業制作としての出来映え以上に、自分の育った環境をもとにして作ったもの初めてのものとして、僕はこの作品にとても愛着があります。美しいイメージの機械的な切り貼りではない、ぺらぺらな文化から生まれたリアルを少しは表現できたのではと思っています。


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今も、相模原のことは少し嫌いです。しょうもないなあと思うし、京都や大阪みたいなしっかりした文化のある土地へのあこがれも強い。いわゆる日本文化の勉強も続けたいと考えています。

でも、僕にとっての日本は、このしょうもない土地を中心に広がっています。