ふしぎデザインブログ

デザイン事務所「ふしぎデザイン」の仕事やメイキングについて書くブログです。

描かれたユートピア

古本発掘シリーズ その2は、Helmut Jacobyの"New Architectural Drawings"です。

Helmut Jacobyは建築家。1926年ドイツ生まれ、ベルリン工科大学、ハーバード大学で学び、1956年に自らの建築事務所を設立しました。この人が面白いのは、自分が建築を手がけるよりも、他の建築家のレンダリングを請け負うことが活動の中心であったこと。クライアントはグロピウス、ミース、I.M.ペイなどそうそうたる顔ぶれです。

そしてこのレンダリングの精緻さ!全く狂いのないパース、部材の構造や質感、空間、陰影と、自身も建築家であるからこその技術に加えて、建築の背景となる草木や人間などにも、手の痕跡が感じられてすばらしい。クライアントから図面を渡されただけでここまでのイメージを作り上げるのは、ある意味ファンタジーの領域のような気もします。

手元にある本そのものは経年変化で黄ばんでしまっていますが、実物には画面からは伝わらない緻密さがあります。



















デジタル化が進み、いろいろと機械が「やってくれる」時代になった今、ここまでの技術をもつ人はほとんどいないでしょう(また、必要ではないのかもしれません)。しかし、これらのレンダには、単なる建築のプレゼン用カットを超えた凄みと、技術が明るい未来を作るんだ!という素朴とも言えるビジョンが感じ取れて、素直に感動させられました。