ふしぎデザインブログ

デザイン事務所「ふしぎデザイン」の仕事やメイキングについて書くブログです。

デザインスケッチってなんだっけ

草野くんのブログのポストを読んで、ものすごく共感しました。
プロダクトデザインと、それを進めるためのスケッチについてとても鋭い考察を展開しています。

まず読んでください。

その内容をふまえて、デザインスケッチについて僕も考えてみることにします。



デザインスケッチというのは、乱暴に言えば「デザインのために機能するビジュアル」だと思います。
ものを作るときには、いくつもの種類の絵が必要になります。

イデアを広げるための絵
イメージを膨らませる絵
形を考えるための絵
機能や構造を考える絵
形をわかりやすく説明するための絵
ものの魅力を伝える絵
使いかたを伝える絵
寸法を定義するための絵

などなど、枚挙にいとまがありません。
もし、上に挙げたような目的を達成するために、「絵を使ってはだめ」と言われたら大変です。

「今考えている器のかたちは ―丸みがあって、でもすっきりしていて、エッジの部分が薄く繊細な表情が魅力です」なんて聞かされても、実際にそれがどんな丸みがあるのか、どのように繊細なのかさっぱりわからない。
また、「基本的にはお椀型の回転体で、高台の部分がΦ40、全体の高さが55で、口はφ80、胴の半径が最大部分は底面から30mmの地点にあり側面のRは・・・」と言葉で形を定義しようとしても、冗長になるばかりで伝わらない。百聞は一見にしかず。みたいな。
当たり前のことですが、デザインスケッチはいろいろな局面においてすばらしくリッチなツールです。



ここからが問題です。

僕は、現在の「いわゆるデザインスケッチ」は、何かおかしいと思っています。
本来、上記したようなさまざまな目的を果たすメディアであるスケッチが、思い込みや勘違いによって、その可能性を狭めてしまっているような気がする。
具体的には、「製品の完成予想図をかっこよく描く」という一つの機能を注視するあまり、他の機能のことを忘れているのではないかとさえ思います。あくまでも空想ですが、日本メーカーのデザイナーは、80年代初頭に海外から入ってきた「超かっこいいビジュアル」を忘れられないのではないでしょうか。





超かっこいい。
しかしそれは、デザインスケッチの機能のいち側面でしかありません。
これらの絵は未来の環境やプロダクトのイメージやフォルムを魅力的に伝えているという点で機能的ですが、「形を定義する機能」「考えるツールとしての機能」などは全く持っていない、ある意味では必要十分の絵です。
なのに、このときのインパクトがあまりに強かったために、「『見せる絵』以外も、かっこよくないといけない」「ものが描かれる以上は、正確なプロポーションに見えるようにしなければいけない」「カチっとした、シャープな絵でなければいけない」などなど、さまざまな強迫観念が植え付けられてしまった。そして、未だにそこから脱出できていないのだと思います。
草野くんが書いていた、”独自のマナー”というのは、このことではないでしょうか?


逆に、今挙げたようなものでなくても、魅力的でよく機能するデザインスケッチはたくさんあります。











上は吉岡徳仁の、下はブルレック兄弟のデザインスケッチです。
二つとも、プロポーションが正しいかどうかも分からないし、きちっとものの形が描かれているわけでもない。ですが製品の美的なエッセンスをよく伝えているし、デザイナーの思考を強力にドライブしているという点で、十分に機能的です。しかも、さっきのスケッチとはまた違うかたちで、超かっこいい。
このようなスケッチを見ていると、デザインスケッチに対する先入観がちょっとずつ崩れていくような気がします。



自分の課題として、「いわゆるデザインスケッチ」の価値をきちんと認めた上で、先入観を取り除きスケッチ本来がもつリッチさを、なんとかして獲得したいなーと思っています。

スケッチの価値は、「機能すること」。
だから、求められる機能によって、デザインスケッチはいくらでも形を変えることができる。
ロックミュージックにも、音声ガイドにもなれると思うんだけど、どうかなあ。